(更新日:2023年1月31日)
先日、米国債ETF(前編、後編)を特集したところたくさんの反響を頂戴しました。資産形成のベースはVTIやVOOなどの株式ETFがベースになろうかと思います。一方で、運用資産額が大きくなってきたり、資産運用も出口が見えている場合は債券ETFをポートフォリオに追加してインカムを得ながらポートフォリオのバランスを整えたいというニーズがあるかと思います。
今回は米国債のみならず米社債にも広く投資する総合債券ETFの特徴を整理していきたいと思います。具体的には米国総合債券ETFの代表格であるAGG(ブラックロック社)とBND(バンガード社)について、構成内容や経費率の基本情報から利回り推移や株式ETFとの逆相関性についてまとめます。
途中で雑談等(住宅ローン担保証券について)も挟んでいるので、目次から必要な情報を適宜つまみ食い頂けると幸いです。
【米国債券ETF】AGGとBNDとは(基礎情報)
(2022年7月時点) | AGG | BND |
運営ファンド | ブラックロック社 | バンガード社 |
価格 | $104.07 | $76.90 |
設立年 | 2003年 | 2007年 |
銘柄数 | 10,315 | 10,123 |
経費率 | 0.03% | 0.03% |
加重平均残存期間 | 8.73年 | 8.9年 |
純資産残高 | 834億米ドル | 830億米ドル |
出典:バンガード社HP、ブラックロック社HP |
ブラックロック社のAGGの方が設定が早いです。経費率と純資産残高については双方ともに甲乙付けがたい内容です。米総合債券ETF(米債券市場全体)に投資できる選択肢が経費率0.03%というのは超格安だと感じます。同じく経費率0.03%の米国株式市場全体に投資するVTIと組み合わせることで株式:債券=6:4という伝統的なインデックスポートフォリオを低コストで構築することが可能です。
そして、両ETFとも純資産残高が9.5兆円規模(1$=115円で計算)と投資家から高い支持を集めていることがうかがえます。
【米国債券ETF】AGGとBNDのポートフォリオ
米国総合債券ETFであるAGGとBNDですが、ポートフォリオの中身は微妙に異なるものの、『米国の投資適格債(信用格付BBB以上)に広く投資する』というコンセプトは同じであり、内容に大きな違いはありません。AGGもBNDも大部分を米国債と住宅ローン担保証券(MBS)が占めており、全体の7割以上にAAAの信用格付が付与されています。
【米国債券ETF】AGGのポートフォリオ
ポートフォリオの内容ですが、上位発行主体(Top10)を眺めると米国債(40.85%)、政府系金融機関または政府支援機関が発行する住宅ローン担保証券(27.88%)が合計68.73%と全体のほとんどを占めていることが分かります。その他は、株式投資家にもお馴染みの金融機関の社債が名前を連ねています。そして、安定性の観点からは保有債券の7割超は最高のAAAの信用格付が付与されています。

機関名 | 通称 | |
① | 連邦住宅抵当公庫 | ファニー・メイ |
② | 連邦政府抵当金庫 | ジニー・メイ |
③、⑤ | 連邦住宅金融抵当公庫 | フレディ・マック |
④ | →ファニー・メイとフレディ・マックの住宅ローン担保証券を統合したもの |

【米国債券ETF】BNDのポートフォリオ
BNDもAGGとほぼ同じ内容になります。米国債(45.96%)と政府系金融機関または政府支援機関を発行主体とする住宅ローン担保証券(20.24%)が合計66.2%とAGG同様にポートフォリオの大部分を占めています。保有債券の信用格付についてもAGG同様に7割超にAAAが付与されています。


【雑談】住宅ローン担保証券
住宅ローン担保証券とは、銀行等が個人に対して持っている住宅ローンの債権(利息を取り立てる権利)の束を証券化(債券に)して販売する金融商品です。銀行が回収した貸付利息が債券保有者にそののまま移転するお金の流れになることからパススルー証券とも呼ばれます。このようにして住宅ローンの債権回収の権利を証券化することで、銀行は融資のリスクを市場を通じて分散することが可能になり、より多くの融資を実行できるメリットがあります。債券保有者にはリスクの一部を引き受けることで、利益の一部をシェアしてもらえるメリットがあります。証券化技術は社会発展に必要不可欠な金融の発明と言えると思います。
そして、AGGやBNDが保有する住宅ローン担保証券は政府機関債とみなされ、米国債相当の高い信用格付が付与されています。現在は金融危機(2008)の反省からサブプライム(信用力の劣る人達)への貸付は規律を持って監督されていると思いますが、証券化債券の裏付け資産である個別の住宅ローン債権の質まで信用格付機関が細かくチェックすることなど実務的に不可能ですから、(米政府関連組織としての信用力を頼りに)表面的な高格付に変化はなくても住宅ローン市場の規律が緩めば中身は腐るかもしれないことは多少リスクかも知れません。つまり、『証券化によるリスク分散』は、別の見方をすれば米国住宅ローン市場のリスクが世界中に拡散されていると見ることもできるかも知れません。
AGGやBNDの保有は、米国人のマイホーム取得を間接的に支援することを意味します。それはつまり、米国人の信用リスクを薄くではありますがテイクしているということでもあります(直接的または間接的に米国政府がMBSの利息支払の確実性を担保しているので過度に危険に思う必要は全くないとは思います)。
この点が気になる人は、(AGGもBNDも大部分は米国債ですし)米国債ETFに対象を絞ることも一考の価値があります。
【米国債券ETF】AGGとBNDの分配金実績
AGGとBNDは毎月分配金を出すタイプのETFになります。そして、年間単位の各年における分配金が以下一覧になります。
AGG | BND | |||
年間分配金 | 増減率 | 年間分配金 | 増減率 | |
2008 | $4.682 | – | $3.523 | – |
2009 | $4.010 | ▲14.35% | $3.164 | ▲10.19% |
2010 | $3.951 | ▲1.47% | $3.149 | ▲0.47% |
2011 | $3.491 | ▲11.64% | $2.986 | ▲5.18% |
2012 | $3.271 | ▲6.30% | $1.950 | ▲34.70% |
2013 | $2.472 | ▲24.43% | $2.228 | 14.26% |
2014 | $2.639 | 6.76% | $2.294 | 2.96% |
2015 | $2.648 | 0.34% | $2.078 | ▲9.42% |
2016 | $2.587 | ▲2.30% | $2.029 | ▲2.36% |
2017 | $2.536 | ▲1.97% | $2.415 | 19.02% |
2018 | $3.147 | 24.09% | $2.412 | ▲0.12% |
2019 | $3.035 | ▲3.56% | $2.279 | ▲5.51% |
2020 | $2.531 | ▲16.61% | $2.098 | ▲7.94% |
2021 | $2.023 | ▲20.07% | $1.798 | ▲14.30% |
出典:Yahoo Finance |
【AGG/BND】分配金推移
リーマンショックが発生した2008年を境におおむね分配金は下落傾向にあります。これは米国FRBが米経済の立て直しのため金融緩和を推し進める中で政策金利を一貫して押し下げたためです。政策金利が下がると国債の金利も低下します。以下の記事(日本国債、米国債)でご紹介したように国債はリスクフリーレートとしてあらゆる金融条件の相場形成に影響を与えています。米国で言えば、米国債の金利水準が低くなるほど、米国企業は低金利での社債発行(資金調達)が可能になります。つまり、AGGやBNDの原資産である米国債や住宅ローン担保証券や社債の分配金も低い方へ流れます。

FRBの政策金利の推移

【米国債券ETF】AGGとBNDの債券価格推移

見ての通りAGGとBNDの価格推移は非常に安定しています。リーマンショック(2008)とコロナショック(2020)にはノイズが見てとれますが、翌年にはすでに元の価格帯に値を戻しています。これは非常にすごいことで株式ETF(VTIやVOO)はリーマンショック前の株価水準に戻るまで4年以上の歳月を要しています。以上の通り、価格推移に動きはほとんどないので、AGGやBNDの実質リターンは分配金水準とインフレの状況に依拠しています。また、別の見方をすれば高インフレが総合債券ETFの弱点になるかと思われます。
【米国債券ETF】AGGとBNDの利回り推移

AGGとBNDの分配金実績は確認した通り、リーマンショック以後は概ね下落傾向です。分配金利回りも下落トレンドであり、2022年7月時点の利回りは2%前後になっております。FRBの利上げ動向に注目です。
【米国債券ETF】AGGとBNDのトータルリターン推移

こちらは2007年7月から2022年7月までのAGG・BNDトータルリターンをS&P500と比較(配当再投資あり)したものです。リーマンショック直後の影響度合いの差を反映して、2008-2013年まではAGG・BNDのリターンがS&P500を上回りました。
AGGとBNDについてはリーターンにほとんど差はつかないことも見てとれます。
CAGR | 標準偏差 | 最大下落率 | シャープレシオ | |
AGG | 3.04% | 4.04% | ▲11.92% | 0.62 |
BND | 2.95% | 3.98% | ▲12.23% | 0.61 |
S&P500 | 9.42% | 16.03% | ▲48.47% | 0.61 |
【米国債券ETF】AGGとBNDの株式逆相関性
米国株式ETF(VTI)とAGG・BNDの相関度について期間毎に分析してみました。相関度については1に近づくほど同じ値動きをする関係性にあり、0に近づくほど値動きの関係性がゼロという見方になります。なお、ゼロを深堀り−1に近づくと逆相関の関係にあるということを意味します。
リーマンショック前(2003/10-2007/1)
BNDは運用開始前なので、ここではAGGとVTIのみの比較になります。相関度はゼロという結果で、双方の値動きに関連性はなかったとのデータです。

リーマンショック最中(2008/8-2010/1)
リーマンショックの影響を一番強く受けていた期間中は相関度が多少あるとの結果になりました。これは総悲観の中で株式や債券などの資産クラス関係なく全て叩き売られるタイミングを含んだことによります(回復速度に差があったことはこれまでに提示したデータの通りで、年間リターンは対照的な結果になっております)。

直近における値動き(コロナショック前)2018/1-2019/6
ほぼ相関関係はなく、やや逆相関よりに力学が働いているという観測データです。FRBの政策金利チャートを本記事中に載せましたが、この頃は金融正常化(利上げ)に動いている時期でした。

直近における値動き(コロナショック以後)2020/4-2022/6
異次元の金融緩和を経て利上げしているフェーズですが、次のような相関度となっております。金融政策により債券市場が歪められたことで株式の値動きの相関度が高まっており、さらに、利上げによる債券価格の低下によりAGGとBNDのリターンはマイナスとなっています。

米国債券ETFの保有に関する所感
政策金利と債券価格はシーソーの関係にあり、片方が上昇するともう一方は下落に転じます。つまり、一般的にはFRBの利下げ局面では債券価格は上昇(⬆︎)し、金利は低下します(⬇︎)。一方で、利上げ局面では債券価格は下落(⬇︎)し、金利は上昇します(⬆︎)。そして、直近は政策金利がゼロに張り付いたことで価格上昇は理論的にほぼ見込めず、価格下落リスクが極端に大きな状態になっています。一方で、2022年7月時点ではFRBは米国での高インフレ状態化を懸念して急ピッチでの利上げに臨んでいます。米国政策金利が正常化して、債券価格の上昇余地と下落余地のバランス感が適正化されれば債券保有についても投資妙味が増していくことが予想されます。
そして、債券市場の正常化も進めば(運用資産が小さいうちはポートフォリオの中身を分散してもほとんど効果がないのでVTIやVOOなどの株式ETFを単独で積み立てることで十分と思いますが)ポートフォリオの規模が大きな人は少しづつAGGやBNDを組み入れて比率を6:4に近づけて出口を目指すのも多くの投資家にとっての有力な選択肢になるでしょう。AGGやBNDは株式と比べて値動きの標準偏差が小さく相場軟調時の緩衝材(クッション)の役割を果たすためです。
さらに分散度を高めたい方には全世界債券ETF(BNDX)をさらに追加する選択肢も有効です。
そして、今回の内容が役に立ったと思っていただけた方は、本記事と合わせて米国債ETF(前編、後編)もぜひご一読ください。米総合債券ETFに加えて米国債ETFの基礎的内容を理解すれば、普通の個人投資家が押さえておくべき債券ETFの基本は、大部分はカバーできていると思います。

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