金融やエネルギーといった産業の分類分けは投資家なら聞き馴染みがあると思います。この何気ない産業分類ですが、米国ではGlobal Industry Classification Standard (GICS)により企業のセクター分類がルール化されています。GICSの直訳は世界産業分類標準です。
やや小難しいですが、企業のセクター分類をより公平で客観的に行うための基準を金融ビジネスの実力者たちが作ったとお考えください。
その実力者たちというのが、格付会社であるS&Pと株価指数の開発で有名なMorgan Stanley Capital International(MSCI)です。
わたしたちは、普段エクソンモービルはエネルギー、JPモルガンチェイスは金融など直感的にセクターをイメージしています。ビジネスや投資の世界では、なんとなくで決められたセクター分類は仕事で使えないので、これらの直感的なセクター分類に基準を設け、お墨付きを与える(もしくは正しい分類に修正)するための道具がGICSと理解しましょう。
GICSによって、業界は大きく11種類に分類されています。
①エネルギー
②素材
③資本財・サービス
④一般消費財
⑤生活必需品
⑥ヘルスケア
⑦金融
⑧情報技術
⑨通信
⑩不動産
⑪公益事業
GICSが誕生したことで、業界分析もより客観的に行えるようになったほか、これらのセクターに連動するETFも誕生することになりました。
世界中のアセット・オーナー、ポートフォリオ・マネージャー、及び投資アナリストと多くの議論を重ねて開発されています。世界の金融コミュニティの間では、産業に関する正確、完全、かつ標準的な定義が求められており、GICSはこうしたニーズに応えるように設計されています。
GICSメソドロジーは、産業分析の枠組みとして広く受け入れられており、投資リサーチ、ポートフォリオ運用、及び資産配分などにおいて重要な役割を果たします。GICSメソドロジーは、普遍的なアプローチを用いて世界中の産業を分類しているため、投資プロセスの透明性や効率性を高めることに貢献しており、セクター投資においてトレンドを把握することにも役立っています。
ーS&P(GICS)ー
本日ご説明するのが、このセクターに連動する11種類のセクターETFsです。
景気循環と米国セクターETFの傾向
まず、なぜセクターETFに需要があるのかという点ですが、景気循環とセクターの好不調には大まかな相関関係があることが関係しています。
(あくまで理想論ですが)この景気循環に合わせてセクターETFをポートフォリオに組み込めば短期的な利益が追求できたり、損失を抑えたりすることが期待できます。

2022年2月時点の現在ですが、欧米諸国でインフレの高止まりを受けて急ピッチでの利上げが議論されています。高インフレ✖️利上げという組み合わせは景気後退の前兆と解釈されているので、足元の株式市場を見るとハイテク株が売られ、エネルギー株が買われていますね。これはまさに『景気サイクルとセクターローテーション』が描いた通りのきれいな動きとなっています。
コロナショック時の各セクターの株価(2020年3月11日)
ちなみにコロナショックで株式市場が大きな動揺を見せた株価の動きをセクター別に表示したものです。特徴的だったので当時写真に収めていました。

米国セクターETF11種の概要
上述のGICSに基づくセクターETFはバンガード社とステートストリート社のものが代表的です(ブラックロック社のセクターETFはやや独特な世界観)。
バンガード社、ステートストリート社ともにセクターETFの経費率は一律0.1%です。なお、VNQは日本の主要証券会社(SBI証券、楽天証券、マネックス証券)で取扱いがありません。その他のセクターETFはSBI証券や楽天証券で購入可能です。
バンガード社 | ステートストリート社 | |
エネルギー | VDE | XLE |
素材 | VAW | XLB |
資本財・サービス | VIS | XLI |
一般消費財 | VCR | XLY |
生活必需品 | VDC | XLP |
ヘルスケア | VHT | XLV |
金融 | VFH | XLY |
情報技術 | VGT | XLK |
通信 | VOX | XLC |
不動産 | VNQ | XLRE |
公益事業 | VPU | XLU |
(出典)バンガード社、ステートストリート社 |
米国セクターETFの相関関係

相関関係が高い(同じ動きをする)組み合わせほど1.0に近づき、相関関係が低い(反対の動きをする)組み合わせは0に近づきます。こちらは過去6ヶ月の相関関係になります。
大きな傾向としては、冒頭の円グラフの対極にあるセクターETFの組み合わせほど相関関係は弱まりますが、景気の波や金利の状態で相関性は相対的に強くも弱くもなります。
景気サイクルとセクターローテーションを頭に入れた上で、こうしたセクターETFの相関関係の機微をモニタリングすると米国株式市場のトレンドを把握するのに役立ちます。
米国セクターETFの戦略的な使い方
セクターETFは個別株投資とインデックス投資の中間地点にいる投資家に需要がある運用商品でしょう。個別企業の進退までは読めないけど、業界の浮き沈みは掴めるという人はセクターETFを活用して、市場平均(インデックス)より高いリターンを狙えます。
『基本はインデックス投資メインだけど、いまこの瞬間は”この”セクターが明らかに伸びる兆候が出ている』と思った時にサテライト的に組み込んでポートフォリオ全体の利益の底上げを狙ったりなどの使い道が考えられると思います。
また、S&P500などの株価指数はその仕組みとして、特定の成長セクターが全体に占める割合が大きくなってしまうので、それを嫌う人は各セクターを好みの割合で保有して自分だけの分散型ポートフォリオを作成する手段としてもセクターETF(11種)は役に立つかもしれません。S&P500をメインに、S&P500で大きな割合を占めるセクター(今なら情報技術)と相関性の低いセクターETFをブレンド的に追加してポートフォリオ全体の動きをマイルドにするなどの使い道も考えられます。
ETF Replayというバックテストができるサービスを利用すれば、好みの割合のポートフォリオが市場平均と比較してどのような成績を残していたのかも検証できます(5銘柄以上のETFを組み合わせたポートフォリオの検証は有料版の購読が必要ですが)。
コメント