【SPYD構成銘柄】エクソンモービル(XOM)銘柄分析〜元祖石油メジャーの王〜
エクソンモービル(Exxon Mobil)はシェブロン (Chevron)同様に石油王ロックフェラーが作り上げたスタンダードオイル社に起源を持つ石油メジャーになります。
スタンダードオイル社は当時世界最大の原油生産量を誇った19世紀後半〜20世紀初頭の米国において市場を独占した元祖石油メジャーでした。
1911年に独占禁止法に違反した状態であるとして、スタンダードオイルは34社に分割されます。
この分割時に後のエクソン社とモービル社に発展する前身企業が誕生しました。
その後エクソンとモービルは躍進を続け、第二次世界対戦以降(1970年代に石油覇権がOPECに移るまで)セブンシスターズの一員として世界の石油市場を牛耳りました
この最強メジャー2社が1999年に合併して誕生したのがエクソンモービル(Exxon Mobil)です。
2019年の売上高は約2,650億ドル(約28兆3千5百億円)でした。エクソンモービルの業績が好調だった2010年代前半は売上高でシンガポールやタイのGDPを凌駕していました。
まさに国家経済並みの財務力を持った超大企業です。
【XOM】企業情報
会社名 | エクソンモービル(Exxon Mobil) |
ティッカー | XOV |
市場 | ニューヨーク証券取引所(S&P500銘柄) |
セクター | 総合石油 |
備考 | SPYD構成銘柄(2020年5月時点)連続増配年数37年 |
出典:Yahoo Finance |

注目ポイント(配当姿勢)
エクソンモービルは連続増配年数37年の配当貴族銘柄です。
その株主重視の姿勢は収益が落ち込んだ2019年にも意地の増配を見せたことからも伺いしれます。
しかし、この栄光の増配記録に黄色信号が灯っています。後述の分析通り、エクソンモービルの営業CFは伸び悩んでおり配当水準の維持が年々難しくなって来ています。
2019年には147億米ドルの配当金を株主に還元。
そして、事業継続に必要な設備投資と探鉱に311億ドルを支出しており、これだけでも合計すると458億ドル(約5兆円)のキャッシュアウトがありました。
一方で、エクソンモービルの2019年の営業CFは297億ドル(約3兆円)なので現在の収益レベルでは現在の配当水準を到底維持することはできません。
2019年に不足した配当資金は、資産売却(約37億ドル)と借入(約87億ドル)で賄われました。
このようにエクソンモービルは既にかなり無理をして増配記録を維持しています。
そして、2020年の配当金にも関係する発表が4月に行われました。主題は2020年の設備投資は前年比30%削減するというものでしたが、発表内で目を引いたのはこの一文です。
Our capital allocation priorities also remain unchanged. Our objective is to continue investing in industry-advantaged projects to create value, preserve cash for the dividend and make appropriate and prudent use of our balance sheet.”
エクソンモービルプレスリリース
(訳)我々の資金使途の優先順位は一貫している。配当や借入に対して十分な水準のキャッシュを創出するために優位性の高いプロジェクトへ投資を継続していく。
厳しい事業環境でも、やはり配当への並々ならないこだわりを見せています。
そして、2020年の設備投資(削減後)は230億米ドル程度となり100億米ドルが節約できる見込みです。
営業CFに削減費用を加えると約400億米ドル>380億米ドル(=230+147)となるので、昨年程度の営業CFを確保出来れば、増配継続が財務上は可能な状況になります。
もっとも本来の設備投資資金をつぎ込んで2020年も増配継続をすることは、未来の収益を犠牲にして、足元の配当を支えることになるので、本当の意味で投資家にとって好ましいかは議論の余地があります。
エクソンモービルの原油生産量は近年伸び悩んでおり、本来であれば将来の収益のために適切な設備投資を行っていくべきです(実際にコロナ危機の前は、設備投資資金の拡充という真逆の計画を名言していました)。

長期投資家は目先の利益(配当)とエクソンモービルの将来性を天秤にかけて保有判断をする必要があります。
筆者は個別株でエクソンモービルを保有する管理コストは高いと思うので、SPYDを通じた保有がベターだと思っています。
【XOM】収益構造

エクソンモービルは上流(原油・ガス生産)から下流(石油精製・販売)までを手がける総合石油事業会社です。
他の石油メジャーと比較してユニークなのは化学部門も擁しており、石油加工品であるエチレンやポリエチレンの製造も手がけています。
エチレンやポリエチレンは車のバンパー・プラスチック袋・プラスチック容器(洗剤容器等)などの最終製造品に姿を変えて、私たち消費者にも広く利用されています。
しかし、他の石油メジャー同様に収益の柱は上流部門での原油販売になっております。
従い、原油価格の上昇なくしては業績改善もあり得ない収益構造になっています。
【XOM】売上高・EBIT・純利益

エクソンモービルの収益力はリーマンショック前こそ強靭で石油メジャーの中でも群を抜いていましたが、全体として減少傾向であることは否めません。
近年は10%以下で低調に推移しています。
【XOM】キャッシュフロー

効率的なキャッシュ創出の指標である営業CFマージンは10%前後で横ばいです。
フリーキャッシュフロー黒字を維持はしていますが、配当維持や増配継続を目指すのであればより潤沢なキャッシュフローが必要ですね。
源流を共にする競合であるシェブロン(Chevron)は営業CFマージンで概ね15%程度の水準を実現しています。
よって、収益力改善によるキャッシュ創出がエクソンモービル喫緊の課題ですが、事業環境が厳しすぎるというのが筆者の率直な感想です。
理由はシェールオイルの台頭です。
シェールオイルは生産コストが高いのが特徴ですが、損益分岐点が$55〜60にあり、この価格帯を超えるとシェールオイルの増産が進みます。
すると、原油供給量はシェールオイルの損益分岐点に回帰するまで拡大し続けますから、原油の上値も抑えられてしまいます。
つまり昔のような原油価格$100を超えは構造的に困難になっているのです。
エクソンモービルというよりも産業構造の問題ですが、以上の理由より収益力の急激な改善は起こり難いと考えています。
【XOM】財務健全性

エクソンモービル(XOM)の財務健全性は今のところ堅調です。
債務残高は史上最高水準となっており、本年4月(2020)にS&PとMoody’sが1ノッチの格下げを実施したものの、有利子負債EBITDA比率は1.2倍程度を保っています。
有利子負債EBITDA比率が1.2倍というのはシェブロン(CVX)につぎ石油メジャーの中では優位性のある水準です。
格付自体も以前として高位であることに変わりはなく、資金調達能力も揺るぎそうにありません。
【XOM】配当金実績

前述の通りエクソンモービルは連続配当年数37年の輝かしい配当実績を誇っています。
そして、足許の配当利回りは8.23%の水準に達しています(2020年5月16日)。
高配当株投資家からすると思わず手を出したくなる銘柄です。
しかし、冒頭で言及した通り配当水準の維持は年々厳しさを増している状況です。
上の表の通り、急激な収益改善は見込めない中で配当性向も100%を超えてしまっています。
配当利回り8.23%は株価低迷の結果であり、産業自体とエクソンモービル自体の将来性に対して長期投資家が疑問符を突きつけているとも解釈できます。
配当利回り8.23%はやはり異常な水準であり、安易に逆張り投資で手を出すと火傷をする可能性があります。
産業構造とエクソンモービル事業の将来性によほど造詣が深いのでなければ、ETFを通じての保有が無難な銘柄だと筆者は思います。
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