パッシブ型(指数に連動)の投資信託やETFに投資を行う際は、連動先のベンチマークの中身を確認しておくことが重要だと【VYM】連動するベンチマークについて学ぶのなかで申し上げました。
バンガード社の低コスト・米国高配当ETFであるVYMのベンチマークを取り上げましたので、第2回としてステートストリート社のSPYDのベンチマークについて解説したいと思います。ベンチマークを知る事で、同じ『米国高配当』というカテゴリーの中でも各社のスタンスの違いが見えてきて大変興味深いです。ブラックロック社、バンガード社、ステートストリート社は世界三大運用会社の地位を占め、各々が展開する米国市場平均に連動するインデックスファンド(ETF)は国家GDP並の資産運用規模を誇ります。インデックスファンドはコンセプトで特色が出ることはありません(市場を丸ごと保有する訳なので)。一方で、『米国高配当』という切り口で裁量の余地を与えると、どんな組み合わせ(銘柄選択)が最適解なのかは各社で意見が全く違うのですよね。VYMやSPYDやHDVは、これらの名実ともに世界最強の資産運用会社の意見の違い(プライド)を背負っているのです(たぶん)。
SPYDはVYMやHDVに比べて頭ひとつ抜けた人気を誇っていましたが、コロナ相場の時の大幅下落により、その人気は往時に比べるとだいぶ下火になってしまいました。しかし、経費率は0.07%と格安の部類で優秀な選択肢であることに変わりないと私は考えています。配当利回りと増配傾向に関して安定感に欠けるのが難点であり、ポートフォリオのコアとして集中投資を行うのは攻め過ぎかなとの私見ですが、低コスト且つある程度の質が担保される仕組みで配当利回りが5.0%以上を狙えるETFというのは唯一無二でありサテライト的には魅力ある存在だと私は考えています。
ベンチマークのルールを理解して、どのような特徴を持ち得るのかを考察することが、SPYDをポートフォリオに組み込むべきか否かの判断の一助となるかと思います。
【SPYD】指数提供元について
指数提供元はS&P Dow Jones Indices社です。同企業は米国三大格付会社の一角を占めるS&P Globalの子会社であったS&P Indexとシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループの傘下企業であったDow Jones Indexが合併して2012年に誕生した合弁会社です。
ダウ平均やS&P500と言えば、誰しもが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。Dow Jones Indexはダウ平均の前身となる株価指数(1882年〜)を開発した会社であり、S&P Indexは現在のS&P500株価指数の算出を1957年以来担う存在でした。指数開発業界において、これ以上ない豪華な協力関係ですね。
なお、CMEグループはバターや鶏卵などの農作物の先物取引を源流に持つ、世界最大のデリバティブ取引所です。今日では金利・株価指数・為替・電力・金属(変わり種だと天候オプション)など幅広い品目の先物取引機会を投資家に提供するプラットフォームになっています。主な功績だと、当時は世界初めての株価指数先物としてS&P500先物を1982年に上場させたほか、2017年にビットコイン先物を上場させています。
【SPYD】S&P500 High Dividend Index とは
S&P500 High Dividend Indexは、S&P500採用銘柄のうち配当利回りが最も高い80社が均等割合で組み込まれる株価指数となっています。ルール自体はこの上なくシンプルです。おそらく、この指数の哲学はダウの犬という著名な投資戦略にインスパイアされたものと推測されます。
ダウの犬戦略とは、ダウ平均を構成する30銘柄を配当利回りが高い順に並べ、上位10銘柄に対して投資資本を均等に投資する(年1リバランス)戦略です。
配当利回りが高い=割安銘柄に対してエクスポージャーを張る戦略であり、過去実績では市場平均を上回る期間もあります。対象となるベンチマーク(ダウ平均 or S&P500)および銘柄数(10 or 80)の点で異なりますが、市場平均よりも割安になっている株に対して集中的にエクスポージャーをはるという意味ではダウの犬戦略と同じ哲学を持った株価指数といえます。
『割安株に投資する(配当再投資)』というのはジェレミー・シーゲルが「株式投資の未来」の中でも研究を尽くした投資哲学です。同書で紹介されているシーゲルの研究によれば、1957年〜2022年の45年間においてS&P500構成銘柄のうち配当利回り上位20%だけで構成したポートフォリオ(配当再投資込み)はS&P500(市場平均)のリターンを3倍アウトパフォームしたという折り紙つきです。この投資手法の再現に近い株価指数が、S&P500 High Dividend Indexという訳です。
なお、S&P500で過去最もリターン効率が良かったのはフィリップ・モリスらしいです。株価はひどいのですが、不人気銘柄ということで実際の価値よりも割安に放置されたモリス株を配当金で買いましながら複利の力を効かせることで結果的に、他のあらゆる銘柄をアウトパフォームしたというのがその理由です。関心を深めた方は、ぜひ「株式投資の未来」を読んでみてください。
【SPYD】銘柄選出&管理
S&P500 High Dividend Indexは下記の適格条件を満たす銘柄について、向こう1年間の配当金予測に基づき足元株価に対する配当利回りが高いものから順にリストアップします。そして、上位80銘柄で均等加重平均(1.25%✖️80=100)の指数を構築するのが第1のルールになります。
SPYDの場合、コンセプト自体はダウの犬戦略そのものでありシンプルなのですが、もう一段深く理解するためにはリバランスのルールについても理解しておく必要があります。なぜなら、リバランスされた指数構成銘柄は、配当利回り上位80銘柄になっていないことがあるからです。それは以下のルールに基づいてリバランスを行うためです。
なぜ、単純にリバランス時点の上位80銘柄にしないかと言えば、配当利回りの差が僅差になってくる最後尾の方は極力入れ替えないためです(入れ替えを多くするほど売買手数料がファンドに対して発生する)。なお、リバランスは半期に1回(前月データを基に1月末と7月末に実施されます)。
また、毎月という頻度で構成銘柄の適格性については検査が行われており、構成銘柄がS&P500から除外されたり、今後1年間に渡って無配転落すると合理的に判断される場合は対象の銘柄が除外される仕組みになっています。コロナ相場の時にこのルールが発動して、無配銘柄が容赦無く取り除かれていました。
ここまでのポートフォリオ管理を個人で真面目に行うのは骨が折れるので、経費率0.07%というのはかなり良心的なコスト設定だと思います。
【SPYD】S&P500 High Dividend Index から見える特徴
HDVのベンチマークの構成ルールと比較すると特徴が際立つのですが、独自の財務スクリーニングは全くないのですよね(本当に機会的に配当利回りだけが切り口)。配当利回りで上位を占める銘柄というのは、ズバリ不人気銘柄です。不人気になる要因としては、財務健全性や収益能力について疑問符がついている、または業界全体が斜陽だと思われている(例:タバコ産業)などが挙げられます。
配当利回りが高配当銘柄の水準で見ても上位というのは株価が配当金に対してかなり割安に据え置かれているということです。これだけ旨味があって且つ財務もピカピカで収益観点でも将来性抜群なんて銘柄はオープン市場には存在しません(株価が上がって配当利回りも下がってしまうからです)。つまり、S&P500 High Dividend Indexは普通の投資家が何らか不満に持つ要素を抱えた銘柄たちで構成される指数であると言えるでしょう。
また、こうしたデメリットを持つ銘柄の株価はアップサイドが限定的で金融市場や米国経済の先行きに不透明感があればまっさきに売られる(暴落しやすい)という特徴を持ちます。
SPYDの高い配当利回りは、これらのリスクを取ることによる対価ということです。
じゃあ、これらの銘柄がボロ同然かと言うとそこまでではありません。なぜなら、選出にはS&P500採用銘柄であることが前提とされているからです。S&P500の仲間入りを果たすには以下の条件を満たしている必要がありますから、質の担保に関しては全くのザルという訳ではないのです。
時価総額131億米ドルという基準があるので大企業に対して財務体力の劣る中小企業は仕組み上含まれません。また、4四半期連続で黒字の利益を維持という基準があるので赤字垂れ流しの企業も含まれません。
この仕組みがリスクの最低ラインを守ってくれています。配当利回り(リターン)に対してこのリスクが割に合う投資か否かの判断(好み)によってSPYDの評価は分かれるところかと思います。
SPYDのベンチマークへのトラッキング精度について
ベンチマークが優れているとして、私たちがその恩恵を満足に受けることができるかは運用ファンド(ステート・ストリート社)がベンチマークにきちんと連動させられるかどうかにかかっています。

SPYDは経費率0.07%を取りますので、ベンチマークに対して100%のトラックが出来ているのであれば、その差分だけ劣後してついていくことになります。運用成績が(ベンチマークー手数料)に対してどれぐらい乖離しているかでステート・ストリート社の実力が分かります。6.5年の運用期間における乖離率は0.1%以内に収まっています。
【SPYD】おまけ
SPYDが人気だったころ、盛んに言われていたのはHDVと組み合わせることでポートフォリオのセクターが平準化するのでベストミックスが実現できるということです。しかし、この理論については個人的には完全には成り立たないと考えています。理由としては、SPYDという銘柄は年2回のリバランスを経る中で時勢によって中身がまるで異なるからです。セクター比率も全く変わってきます。
2020年5月頃は不動産や金融セクターが、SPYDポートフォリオの上位セクターを占めておりました。不動産や金融セクターは配当利回りが高いセクターが多いのでSPYDの中でも安定して大きな割合を占めているのがこの2大セクターです。

一方で、足元(2022年6月末)の状況は次の通りです。2020年5月時点と比べると公益セクター(+8.31%)およびエネルギー(+2.24%)が上位を占めているほか、ヘルスケア(+2.84%)が大きく比率を伸ばしているなどポートフォリオの中身が大きく変わっているのが分かると思います。

構成銘柄が80の指数なので、配当利回り以外に基準がないことも相まって経済循環(好調なセクターと不調なセクターの入れ替わり)の影響をVYM(400銘柄に分散)に比べると受けやすい構造になっています。従って、HDVとの組み合わせによるベストミックスによる魅力を感じて保有するような銘柄ではないと個人的には考えています。
つまり、私見を述べるなら、SPYDを保有するかどうかは、ダウの犬戦略(S&P500版)の配当リターンとリスクバランスが心地よいかどうかで判断すべきということです。
SPYDはパッシブファンドではありますが、市場平均ベンチマークに連動するVTIやVOOなどとは違い、ベンチマークが戦略的要素の濃いものになっています。配当利回りが高い銘柄を積極的に組み込む(下がってくれば外す)というのはアクティブなルールなので、玄人な銘柄ではあると思います。
ほかの言い方をするならば、ジェレミー・シーゲルが『株式投資の未来』等の著書の中で研究した『割安銘柄(バリュー銘柄)が市場平均をアウトパフォームする』という経験則に基づいた高配当投資になります。また、そうした結果になることの”理屈付け”もあります。しかし、それは理論というほどには経済学的または数学的に突き詰められたものではないです。
投資ロジックにどこまで保守性を求めるかは私も常に悩みます。結果として、私の中ではポートフォリオの核にするほどでないけど、一定割合を組み込んでみるには魅力的という位置付けになっています。
本記事が役に立ったという方は、ぜひ以下のVYMについてもご覧ください。また、HDVについてはこちらから閲覧可能です。VYMの最大のライバルであるSCHDについてもまとめています。

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