2022年6月現在、米国では記録的なインフレが長期継続しています。『インフレはそろそろピークアウトする』なんて見方も囁かれましたが、6月10日発表の消費者物価指数(5月実績)は専門家予測を超える前年比+8.6%を記録し、一過性で済まないとの懸念が再び高まる展開になっております。この水準は米国でも40年ぶりであり、ほとんどの米国人が初めて経験する経済環境です。
日本でも黒田日銀総裁が就任時より、目標としてた前年比+2%のインフレを2022年4月に達成するなど、インフレは世界的現象になりつつあります。最近は身の回りの食品や生活雑貨の値上げが連日報道されており、日本の一般消費者にもインフレが実感されてきています。
日本も20年ぶりの円安水準と物価上昇に漠然とした不安を抱く日本人も少なくないと思います(私も生まれて初めて国内で経験するインフレです)。日本は年間+2%程度のマイルドな物価上昇であり過度に警戒する必要もないと思いますが、米国CNNより日本人も勉強になりそうな記事が出ていたのでご紹介します。
テーマは、『高インフレ社会の到来に備えて米国市民がどう備えるべきか』です。米国のインフレ懸念は日本よりも遥かに深刻ですから、米国水準でインフレ対策ができれば、私たちも少しは安心できるのではないでしょうか。
好景気のうちに望む職を確保せよ
現在の米国の高インフレは需要に対して供給が追いついていない、景気が好調すぎることに起因するものです。実際に米国の失業率はコロナ前水準を回復しており、足元3.6%程度と完全雇用に近い状態となっています(出典元:米国労働統計局)。
これは裏を返せば、売り手市場のピークにあるとも解釈できます。就職希望者が有利に条件交渉できるうちに、転職(再就職)しておこうというのがCNNの勧めです。
我々が学ぶとすれば、いつでも望む転職(再就職)ができるように履歴書を点検しておこう、という感じでしょうか。日銀がなぜ9年にも渡り金融緩和をしているのかといえば、景気を良くするためです。景気が良くなれば高給を支払っても事業拡大や生産増強に資する優秀な人材が欲しいと考える企業が増える(かもしれません)。この時に準備できている人は、マクロ的な賃金上昇の発生を受動的に待つのではなく、主体的に好景気の恩恵を掴み取ることができます。
日銀のシナリオを信じるのであれば、今から転職準備を開始すれば、良い波が来たときに有利に物事を進めやすくなります。また、日本は結局のところデフレから脱却できないと考えるのであれば、好景気の国に仕事を求めるのも検討の余地があります。
いずれの場合も、履歴書を磨いておくことが選択肢を広げることになりますから、こうした時こそ自分のスキルを見直しておきましょう(足りなければ、これから修練すれば良し)。
持ち家を売却するなら時期を逃すな
米国では半年前までは3%程度だった住宅ローン金利(変動30年)が6%を突破し、持ち家に対する需要が急減しています(これはもちろん指標となる政策金利の上昇が続いているためです)。需要が低減すれば、住宅を高く売るのも難しくなりますから、『売却を考えている人は急いだ方が良いよ』というのがCNNの次なる助言です。
日本で持ち家の売却をする人は多くないと思いますが、売却予定がある人は、(金融緩和を進める黒田日銀総裁の任期は2023年4月8日ですし)政策金利の環境変化があった場合に迅速に行動できるように段取りは今から始めておいて損はないかと思います。私は不動産について詳しくないですが、日本のマーケットもかなりピーク感があるように見えます(2012年以降、都内中古マンションの成約価格も賃料も右肩上がりに上昇中。出典:日経新聞)。
私の同僚も『俺も家を買う歳になった。これ以上に金利が安くなる絵が描けないし、買うなら今かなぁ』なんてボヤいてました。個人的には一生の買い物に損得勘定で飛びつかない方が良いと思いますが、私の周囲でもラストチャンスとばかりにマイホーム購入を検討し始めている人間がちらほらと見られることを思えば、日本の不動産市場も天井が近いのかなと感じなくもないです。
そして、私の雑観から金融市場に目を向けると、日銀が長期金利(日本国債10年物)が0.25%以内に留まるようコントロールする姿勢を明確にしているにも関わらず2022年6月13日付で0.255%をつけて上限を突破しました。これは日銀が利上げせざるを得なくなると考える市場関係者も一定数いることを示しています。Bloombergの記事によれば、一例として欧州のヘッジファンドが日本国債を大量にショートしているそうです。
長期金利の上昇は、住宅ローン金利を上昇させ、住宅需要を低減させます(支払利息が増えるので家を買える人が減ります)。このようなシナリオに現実味があると感じる人は、CNNの言う通り自分が満足いく水準で利益をのせて売却できるうちに売却しておくのが吉でしょう。
金利体系の見直し(変動金利⇨固定金利)
変動金利と固定金利の良し悪し以前に、CNNは『金利上昇前の焦りに背中を押される形で、住宅や車など高い買い物をするな。将来の金利に関係なく身の丈に合わないものは、そもそも買ってはいけない』と注意喚起をしていることは、注目に値します。以上の前提を置いた上でですが、CNNは利上げが予想される場面では可能な限り早く変動金利を固定金利に替えておけとしています。
住宅金融支援機構(国土交通省と財務省の共同所管による独立行政法人)の2021年10月時点での調査によれば、日本で住宅ローンを組んでいる世帯の約7割が変動金利を選択しています。そして、住宅ローンを利用している世帯のボリュームゾーンは年収600-800万円のいわゆる中間層です。
中間層にとって予定にない支払利息の増加は、人生設計や日常生活に大きな影響を与えます。固定金利にしておくと住宅ローンの返済額は確定します。支出が確定するので経済的な見通しが立てやすくなります。『まだ大丈夫』と考えている人も、銀行と話をしてどんな条件で固定金利に変更できるのかは把握しておくべきだと思います。その条件を聞いて、『金利が高い』と思ったら危機感を持った方が良いかも知れません。身の丈に合わない経済的生活をしている可能性があります。
銀行は変動金利だろうが固定金利だろうが自分に不利になる水準では融資しません。基本的には変動金利と固定金利で有利不利はないはずなのです。変動金利が固定金利に対して著しく安く借り手が感じるということは、貸し手(銀行)はそれだけ上昇リスクがあるのでその水準で貸しても問題ないと考えているわけです。逆の立場で考えれば分かることですが、銀行は変動金利も固定金利も支払利息(銀行の立場からすれば金利収入)は有利にも不利にもならない水準に値付けします。もし、変動金利が有利に設定されているのであれば、固定金利を借りる人はいませんし、銀行の立場からすれば本来儲けになるはずの利益を逸してしまいます(借り手に”有利な”変動金利を値上げしても借り手はいるので、その分も儲けられる)。その状態で放置されることはまずないのです。
固定金利に切り替えても経済的余裕がある人は、将来の利息支払金額がいくらになるか分からない変動金利の不透明なリスクを今のうちに排除しておくのが保守的な対応です。また、固定金利では利息支払がきついという人は変動金利が上昇すれば家計は窮する可能性が高いので、今のうちに家計をスリムにして貯蓄を増やし、固定金利に切り替える選択肢も持てるように心がけるべきだと思います。
リスク許容度の再点検
株価が好調な場面ではリスクを大きく取りがちです。そして、自分はリスク許容度が高いと正当化するのも容易です。米国は2020年3月にコロナで一気に景気後退を迎えましたが、それ以前の米国は2019年7月時点で景気拡大の連続年数を11年間として戦後最長を記録するなど、歴史的に見ても好景気を謳歌していました(米国経済一強と言われるゆえんでした)。
2020年も株式相場的には空前絶後の金融緩和で、個人投資家が苦しんだのはほんの一瞬だけです。無理なレバレッジをかけていた人を除いて致命的なダメージを喰らった人は多くないでしょう。
今の相場に目を移せば、米国FRBのみならず世界各国の中銀が利上げや金融資産圧縮に急いでおり、実態経済も久しぶりに本格的なリセッションを中銀の支援が期待できない環境で迎えようとしています。つまり、投資経験が6年の私を含めてほとんどの人にとって未経験の株式相場が展開される公算が高いのです。JPモルガン・チェイス銀行のジェイミー・ダイモン会長もFRBはQTを実施せざるを得ないなど、あまりハンドリングの余地がない展開を指摘しています。深刻度は分からないが、嵐がくるのは確実なので備えよとの警告です。
つまり、この状況から言えるのは、これまでの私達の経験に基づくリスク許容度は通用しないかもしれません。いま一度、冷静に自分のリスク許容度を点検する時かと思います。
最低限の生活防衛資金は必要ですし、心理的防御壁も大切でしょう。個人的には、もし含み損が発生した場合に、その金額は何年分の貯蓄に相当するのかというのを考えています。例えば、数ヶ月や1年程度働けば補填できる水準なら私はあまり気になりません。
最後に
CNNの記事で面白かったのは、『クレカ支払で分割払いをしている人は分割を減らすべき。利率が高いものは早めに安いもの(可能ならゼロ)に乗り換えよう』とのすすめです。分割払い、すなわちリボ払いなのですが、『そもそもリボ払いしないといけない物なんて買うな』とは言わないのですよね。
これが大量消費社会の米国の常識なのです(リボ払いは普通)。こうした背景を理解すると、BNPL(Buy Now, Pay Later)が盛り上がっている理由が良くわかります。借金をして物を買うことに抵抗がない社会であればこそ、無利息の分割払いをサービスとして提供することに価値が認められるのでしょう。最近はAppleがこの分野に参入することを発表しましたね。
借金経済はすなわち、将来の利益を先食いする経済です。貸し手は、借り手の手元に返済資金がなくても、返済期日までに必要なお金が稼げると思えば貸します(つまり、借り手は未来の予定利益を担保に金を借りている)。適度を知らない借り手は限界が来るまで借金で経済の拡大に寄与します。しかし、どこかで歯車が狂って想定通りの稼ぎを確保できなくなった瞬間にドミノ式に貸倒れが起きるか、貸し手が『そろそろ限界』と感じた(貸すのをやめた)瞬間に借金で食い繋いでいた借り手は破綻します。そして、連鎖的に経済縮小を引き起こします。
BNPLは既存の貸し手(銀行、消費者ローン、クレジット会社)に見切りをつけられた人間にさらに借金をする手段を与えることになるので、米国経済の景気拡大のブースターとなる反面、将来のバブルをより悪質なものにする装置にもなるのではないかと思います。
この世に錬金術は存在しません。無から有は生み出せないのです。それにも関わらず、実体経済が完全に停滞していた期間も株式市場から私たちは莫大な富を得続けました。この富は錬金術が生み出したものではありません。将来の富を借金により先食いしたことにより実現したものです(無から有は生まれず、過去には戻れないのだから、未来から持ってくるしかありません)。そして、未来の富(供給と需要のマッチングで生まれる利益)を永遠に先食いすることはできません。人間の欲望(需要)は無限ですが、それに対して地球上の資源(供給)は有限だからです。この限度を超えた供給を前提とする借金が組まれた時点で、この富の先食いは辻褄が合わずにいずれ破綻します。
膨れ上がった歪みから、大きなしっぺ返しが生まれるのは不可避の需給原理です。
富を簒奪され続けた未来は、現在に対して『いますぐに借りを返せ、これ以上は辻褄が合わない。できないのならインフレという手段を用いて強制的に徴収する』と私たちに迫っているように思えてなりません。
それでも、このリセッションを生きのびるために、BNPLに頼る米国人もたくさん出てくると思います。これが新たなリスクになるかもしれません。なお、私は経済学者ではないので、個人的に世界をそのように見ているだけというのは悪しからず。

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