(更新日:2022年12月24日)
バンガード社の代表的な配当関連ETFであるVYMとVIG。双方ともに、コスト競争力(経費率0.06%)、運用実績(2006年〜)、純資産規模(5兆円超え)のどれをとっても超一流のETFです。その優劣については甲乙を付け難いところです。
あなたにとってVYMとVIGはどっちが良いのかという質問に答えを導くためには、何を目的(ねらい)にしてVYMやVIGに投資したいのかという前提をはっきりする必要があります。その上ですが、キャピタルゲイン(税支払を極力繰延べて運用効率を最大化する)により価値を感じるのであればVIGを、定期的に安定したキャッシュフローを確保して配当金で生活支出をカバーするのが投資目的なのであればVYMというのが分かりやすくシンプルな判断基準になるでしょう。
今回は、そのように私が考える理由について、トータルリターンや配当利回りなどの観点でVYMとVIGを比較考察していきたいと思います。
【VYM・VIG比較】トータルリターン

CAGR | 標準偏差 | シャープレシオ | ソルティノレシオ | |
VYM | 8.05% | 14.82% | 0.54 | 0.78 |
VIG | 9.15% | 13.65% | 0.65 | 0.97 |
(運用期間)2007年1月〜2022年7月、配当再投資あり |
Best Year | Worst Year | 最大下落率 | |
VIG | 29.62% | ▲26.69% | ▲41.11% |
VYM | 30.06% | ▲31.91% | ▲51.79% |
トータルリターンおよび投資効率(リスクあたりのリターン)の両面において、VIGはVYMに対して優位に立っております。また、同期間におけるVIGの成績は市場平均(S&P500)と比較しても遜色なく、投資効率で言えば優っています。この点からも投資効率重視のポートフォリオを意図する人はVYMよりもVIGの方が手段としてふさわしいのではないかと思います。なお、投資効率が良いのはVIGは株価低迷期におけるリターンに関して下方硬直性が見られるためです(暴落に相対的に強い)。個人的には、この点がVIGの最大の魅力だと感じます。
<シャープレシオとは?>
リスク(標準偏差)を1単位当たりのリターンを測る指標。同じリターンでもシャープレシオがより大きい方が効率的な投資と言える(少ないリスクで同じリターンをあげている)。
<ソルティノレシオとは?>
リスク(標準偏差)について上昇方向は考慮せず(←上振れする分には投資家にとって有益なため)、下落方向に動いたリスクのみを抽出して、この下落リスクとリターンのバランスを見る指標。算出結果が大きいほど取ったリスクに対して適正なリターンを得られていることを意味する。
【VYM・VIG比較】増配率
VYMとVIGは2006年設定のETFですので、2008年からの増配率をまとめました。リーマンショック期間を含めるか否かで見え方がだいぶ変わるとともに、VIGの特徴を際立たせます。VYMは12年連続増配を2022年に達成しました。
VIG | VYM | |
2008 | 17.53% | 5.88% |
2009 | ▲4.58% | ▲18.75% |
リーマンショック以後 | ||
2010 | 7.05% | ▲6.84% |
2011 | 11.83% | 26.67% |
2012 | 20.03% | 19.55% |
2013 | ▲1.34% | 10.06% |
2014 | 14.19% | 9.14% |
2015 | 14.76% | 12.57% |
2016 | 0.60% | 2.79% |
2017 | 15.68% | 8.60% |
2018 | 6.18% | 10.42% |
2019 | 4.72% | 7.17% |
2020 | 7.62% | 2.46% |
2021 | 15.83% | 6.54% |
年平均(1) | 8.52% | 6.53% |
年平均(2) | 8.86% | 8.70% |
(1)2008-2021、(2)2010-2021 |
前述の通り、VIGはトータルリターン的観点で下方硬直性を見せるという特徴がありますが、配当金についても下方硬直性が確認できます。リーマンショック期間を含めるか否かでVYMは平均増配率に2%以上の差がありますが、VIGはわずかに0.34%です。まず、VYMも運用期間中に減配したのは2回のみで現在も11年連続で増配継続中の抜群の安定感を見せるETFです。そのVYMとの比較でもVIGは、特に減配企業が相次ぐような金融危機時においても配当金の底堅さを発揮しています。
まとめるならば、増配力の点においては互角、減配局面での下方硬直性についてはVIGに優位性があるという傾向が両者の間で見て取れます。この傾向の背景にあるVIGの銘柄構成の取捨選択の仕組みについてはベンチマークに関する記事で詳しく取り上げております。
【VYM・VIG比較】配当利回り
配当利回りについては『高配当』にフォーカスしたベンチマークに連動するVYMがVIGに対してはっきりと優位です。VYMはコンスタントに3.0%を超えますが、VIGは2.0%前後を推移しています。

平均利回り | 最大利回り | 最小利回り | |
VYM | 3.12% | 5.10% | 2.44% |
VIG | 2.05% | 3.20% | 1.48% |
平均配当利回りの差は1.07%となっています。また、配当利回りの差は最も大きかった時で2.19%、最も小さかった時で0.58%を記録しました。
【VYM・VIG比較】配当金シミュレーション
次にベースとなる配当利回り水準に増配を加味すると、保有年数に応じてどのように配当金が成長していくかを比較したデータが次の通りです(なお、シミュレーションの複雑化を避けるため運用期間中の追加投資は行いません)。増配率については、上述比較で(1)リーマンショックを含む(VIGが強い)と(2)リーマンショックを含まない場合で多少の違いがあることが分かりましたので、それぞれの前提で検証します。
結論的には、それぞれのシミュレーションを総合的に評価分析したところ、配当金生活という切り口ではVYMの方が手段として理にかなっていると思います。
リーマンショック期間を含んで試算
配当シミュレーションの前提となる数字は次の通りです。配当利回りの差が1.0%程度かつ、増配率はVIGの方が2%ほど高いという場合での検証になります。結論的には運用開始24年目ごろに配当利回りが逆転するシミュレーション結果になります。
配当利回り | 増配率 | |
VYM | 3.12% | 6.53% |
VIG | 2.05% | 8.52% |

1年目 | 5年目 | 10年目 | 15年目 | 20年目 | 25年目 | 30年目 | |
VYM | 3.12% | 4.02% | 5.51% | 7.56% | 10.38% | 14.24% | 19.54% |
VIG | 2.05% | 2.84% | 4.28% | 6.44% | 9.69% | 14.59% | 21.96% |
これは初期投資に対して増配✖️時間を考慮した場合の比較検証になります。そして、この24年間を要するという結果の見方ですが、単純に24年以上を超える運用期間を想定するのであれば配当金目的でもVIGの方が良いのかというとそう単純ではありません。
これは『VIGに有利になる計算期間や前提で試算しても24年間もかかった』というのが私の見方です。そして、このシミュレーションでVIGをさらに有利にしているのは、増配率が低迷する期間(別の観点では絶好の買い増し機会)で追加投資を行うというVYMの方が有利になるオプションを実行しない前提を置いていることです。
先に述べた通り、VIGの強みは株価の下方硬直性です。これは別の見方をすると、株価低迷期の配当利回り上昇の力はVIGよりもVYMに対して強く作用するということです。この期間中にもVYMを買い増しを行う前提であれば、ポートフォリオ全体の配当利回りを比較した場合にはVYMの方が有利になります。リーマンショックの際には配当利回りは2%程度開きましたので、この差を埋めるにはさらに時間を要します。
リーマンショック期間を除外して試算
続いてはリーマンショックという極端な期間を除いた場合の配当利回りと増配率を用いての検証を行います。具体的な前提の数字は以下の通りです。配当利回りの差は先ほどと同じ1.0%程度(VYM>VIG)ですが、増配率の差(VIG>VYM)が0.16%に縮小しています。
結論的には、VIGがVYMの配当利回りを逆転するのは279年後というシミュレーション結果になりました。
配当利回り | 増配率 | |
VYM | 3.10% | 8.70% |
VIG | 2.06% | 8.86% |

1年目 | 5年目 | 10年目 | 15年目 | 20年目 | 25年目 | 30年目 | |
VYM | 3.10% | 4.33% | 6.57% | 9.97% | 15.13% | 22.95% | 34.8% |
VIG | 2.06% | 2.89% | 4.42% | 6.76% | 10.34% | 15.80% | 24.2% |
増配率にほとんど差がない状況においては、グラフの様子もかなり異なっています。よほど増配率に差がつかないと1%の配当利回りの差を逆転することは非常に困難ということですね。
【VYM・VIG比較】まとめ
VYMとVIGのトータルリターンおよび配当利回り(増配シミュレーション含む)を見てきましたが、それぞれ強みとなる特徴が全く異なることが分かったと思います。これはつまり、住み分けがきちんと成り立っているということです。そして、個人投資家は自分の投資目的により合致する方を選択すれば良いことになります。
『あなたはトータルリターンと配当収入のどちらに重きを置くのか?』という質問に対するあなたの回答次第でVYMとVIGのどちらがよりおすすめかが変わってくるのです。キャピタルゲイン重視(含み益で課税を極限まで繰延べ)の方はVIG。これは、資産形成期で運用資産は20年ー30年先まで取り崩さないという方はVIGと読み替えても良いでしょう。一方で、運用資産から定期的なキャッシュフローを得て生活支出に充当したいという方はVYMが良いと思います。
なお、配当金観点でもう一つ論点を付け加えると、『VIGはベストではないにしても、運用期間をかければ配当利回りはそれなりになる』と考える場合にVIGの位置付けに悩む人もいると思います。この点については、私は次のように考えます。確かに、20-30年目ごろにVIGの配当金を生活支出に充てるというのも一つのゴールのあり方として不都合はないと思います。一方で、VIGの最大の強みはキャピタルの成長性です。配当利回りがそれなりに育っているということは、含み益はその比ではないほど育っているはずです。そして、VIGの恩恵を最大限受けるためには売却が必要になります。しかし、売却すれば株数が減少して配当金は減少します。この『キャピタルゲインと配当金収入のベストミックスがどこにあるのか』というのがVIGで配当金生活を目指すのならば頭を悩ませることになるでしょう。
含み益自体に価値はなく、それを物やサービスと交換して初めて人生に価値をもたらします。ここに配当金という含み益実現と反比例して減少していく評価項目を運用に混ぜると判断が複雑になります。『一つの金融商品で2つ以上の目的を達成しようとするな(欲張るな)』というのが個人的な結論です。つまり、VYMなら配当金目的、VIGならキャピタルゲイン目的という形でそれぞれの長所が最大限生かされる形での運用方針を立てるのが単純明快で効果を得やすいと思います。
運用益は墓場までは持って行けません。どこかで物やサービスに交換していく必要があるわけですが、その方法はキャピタルゲインの利益確定または配当金という形で実現するかの2択になります。どちらが良いかは、個人の趣向やキャッシュフローを厚めにしたいタイミングが何年後になるのかなどに左右されます。『VYMとVIGのどっちが良いか?』という問いも究極的には、この出口戦略を考えることにほかならないと思います。出口戦略については、以下の記事でも私の考えを整理しています。論点の一つとして参考になれば幸いです。
資産形成期は支出のほとんどを労働所得でまかなうつもりならVIGが良いでしょう(余剰のキャッシュフローを課税されながら生み出しても意味がありません)。資産形成期にも労働所得以外のキャッシュフローが欲しい人はVYMが有力な選択肢になると思います。私は後者ですが、理由はこちらです。
VIGがよりおすすめと思われる人については、こちらの記事で考察しました。

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