【更新日】
2022年2月28日:ロスネフチについて
2022年3月1日:ガスプロム、ヤンデックスについて
2022年3月3日:ズベルバンク、ノバテック、ロスネフチ、ソブリン格付変更について
2022年3月4日:ソブリン格付変更(S&P:BB+→CCC-)
2022年3月5日:ERUSの取引中止を追記
2022年3月6日:ソブリン格付変更(Mooody’s: B3→Ca)
2022年3月8日:ソブリン格付変更(Fitch:B→C)
2022年3月19日:ソブリン格付変更(S&P:CCC-→CC)
2022年3月3日付で超重要な追記をしました(ERUSとRSXが新規投資口の発行停止を決定しました。これはETFへの新規資金の流入停止を意味します。市場流通分の取引は継続されるようですが今後に要注意です)後段のETF詳細をご確認ください。また、2022年3月5日付で続報を追記しました。
本記事のタイトルを掲げていながら恐縮ですが、個人的にはロシアへの積極投資は現在のところするつもりがありません。
ロシアへの投資を否定する気はなく、わたしが間違えている可能性はある(投資に”絶対”はないの原則)のでeMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)への投資を通じて間接的にロシアへのエクスポージャーも持っています(以下、2022年3月3日追記)指数開発会社のFTSEとMSCIが、全ての指数からロシア株を除外することを決定したのでeMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)のロシアエクスポージャーも消滅しました)。
しかし、大原則としてロシア含め新興国は以下の弱点を抱えていると個人的に考えており、長期投資との相性はよくないと考えています。そして、後述のロシア特有の経済構造(オリガルヒ)も警戒しています。
わたしは基本的に上述の考えですが、どうしてもロシアに投資するならという前提で、おすすめのETFを2つご紹介します(ロシアの産業構造に興味がない方は目次からETFに直接飛んでください)。
ロシアの基礎情報(人口・経済・財政)
投資対象としてのロシアを理解する上では人口と主要産業は抑えておきましょう。ロシア経済は石油・天然ガスに大きく依存した構造となっています。
ロシア連邦の基礎概要 | |
面積 | 約1,710万平方キロメートル(日本の45倍、米国の2倍) |
人口 | 約1億5,000万人(世界9位、日本は世界10位) |
首都 | モスクワ |
GDP | 約1.5兆米ドル(世界11位、韓国経済とほぼ同規模) |
ソブリン格付(制裁前) | S&P:BBB-(Stable)、Moody’s:Baa3(Stable) Fitch:BBB(Stable) |
ソブリン格付(制裁後) | 格付停止状態(2022年4月8日) |
主要産業 | 石油、天然ガス、鉱業(石炭・金・ダイヤモンド) |
(2022年3月6日追記)格付機関各社がロシアの信用格付を下方修正しています。Moody’sのつけたCaは下から2番目のカテゴリーでデフォルト寸前との評価です。Caの目安として、発行主体の債券(国債)は表面価格の35%-65%しか回収できない可能性が高いことと定義されています。
ロシア経済(主要産業)
ロシアは資源大国です。BP statistical review of world energy 2021およびU.S. Geological Survey-Mineral commodity summaries 2021を元に作成した資源統計が以下の通りです。ダイヤモンドの産出量は世界第1位。天然ガスの産出量は世界第2位。石油および金の産出量は世界第3位です。
ロシア政府の歳入内訳を見ても、石油・ガス関連が半分を占めています。

石油産出量
ロシアの石油産出量は世界第3位です。世界産出量の約10%を占め、米国でシェール石油革命が起こるまではサウジアラビアとTop2でした。

天然ガス産出量
ロシアの天然ガス産出量は世界第2位です。なお、米国は天然ガスでもシェール革命の恩恵を受けて産出量世界第1位の地位についています。
そして、天然ガスは化石燃料でも特に寡占が顕著な資源で、米国とロシアの2カ国で世界産出量全体の4割を占めます。ロシアは単独で世界産出量の17%を占める世界最大級の天然ガス生産国です。エネルギーを自国でまかなえるのは国家運営で最大の強みですね。

金産出量
ロシアは世界で最も高い需要を持つ鉱物資源の一つである金の産出量においても世界第3位の地位を享受しています。

ダイヤモンド産出量
ロシアはダイヤモンドの産出量、埋蔵量ともに世界第1位です。ダイヤモンドは特に寡占性が強い鉱物資源であり、世界最大の産出国であるロシアで世界全体の35%を占めます。

ロシアGDPの推移
2001年にゴールドマンサックスが経済成長著しい新興国としてブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、中国(China)、インド(India)の頭文字をとってBRICsという造語を作ったことからロシア投資は2000年代初頭から2015年頃まで大変なブームになっていたのが記憶に新しいです。傾向としてすべからく人口大国でインド以外はさらに資源大国です。
しかし近年は資源ブームの終焉や欧米諸国との対立からロシア経済の成長はパッとしていません。

ロシア株価指数の推移
ロシアRTS指数(モスクワ取引所上場の大型成長株のうち流動性が最も高い50の国内銘柄からなる時価総額加重平均指数)の推移をキャプチャーしたものです。代表的なロシアETFはこの株価指数全体の85%を占める上位25銘柄に連動するMSCI Russia 25/50 index をベンチマークにしています。
肝心の株価推移ですが、ウクライナ危機問題の影響を受けて年初来50%超えの下落が発生中です。

ロシアETFのおすすめ2選
過去10年(2012-2022)の年平均リターンは約2.0%。過去10年がBRICs冬の時代だったとはいえ、あまりにも寂しい運用実績です。そして、長期投資を前提にすると経費率が高すぎます。やはり『米国株投資しか勝たん』というところですかね。
あくまでBRICs投資をしたい方は、楽天証券でRSXもERUSも取引可能です。SBI証券は2022年2月時点でERUSのみ取引可能。
(2022年3月3日追記)冒頭で記載した株価指数からの排除に代表されるようにロシア株の流動性懸念が高まっています。これを受けてERUSとRSXが投資口新規発行の当面停止を決定しました。これは新規資金の流入ができないことを意味します。すでに市場で取引されているETFについては引き続き取引されるようですが、流動性が枯渇する(売買が成立しない)リスクが高まっています(出典:Bloomberg)。(2022年3月5日追記)ニューヨーク証券取引所がERUSを含むロシア関連ETF3銘柄の取引中止を発表しました。一時的な措置で取引停止や上場廃止ではないとされていますが、流動性枯渇の懸念がさらに高まりました(出典:ロイター通信)。
RSX | ERUS | |
運用会社 | VanEck Russia ETF | BlackRock |
経費率 | 0.61% | 0.57% |
設定日 | 2007年4月24日 | 2010年11月9日 |
運用資産残高 | 12億米ドル | 5.4億米ドル |
平均リターン(CAGR) | 1.2% | 2.1% |
ベンチマーク | MSCI Russia 25/50 index | |
出典:VanEck Russia ETF、BlackRock |
ロシアETFセクター構成
ロシアETFはエネルギーセクターの占める比率が40-50%と常時高いので、資源価格の影響を強く受けるポートフォリオとなっています。

ロシアETFの上位10銘柄の詳細
ロシアETFは上位10銘柄で全体の72%を占めます。石油・天然ガス、鉱物関連が大変多いですね。
業種 | 保有比率 | |
ガスプロム | エネルギー | 19.00% |
ルクオイル | エネルギー | 14.17% |
ズベルバンク | 金融 | 11.01% |
ノリリスク・ニッケル | 素材 | 5.69% |
ノバテック | エネルギー | 4.40% |
タトネフト | エネルギー | 4.26% |
TCSグループ・ホールディング | 金融 | 3.61% |
ヤンデックス | 通信 | 3.30% |
ポリユス・ゴールド | 素材 | 3.21% |
ロスネフチ | エネルギー | 3.05% |
ガスプロム
世界最大の天然ガス生産・供給会社。ロシア政府が同社株式の50.23%を握る半国営企業。欧州最大のガス輸入元であり、ロシアー欧州を結ぶガスパイプラインのノルドストリームが有名(現在もノルドストリーム2の計画が進行中)です。2022年6月30日の株主総会でシュレーダー元ドイツ首相の取締役就任の決議が予定されている(出典:日経新聞)など欧州との結び付きが大変強いです。シュレーダー氏は2017年には後述のロスネフチの会長も務めています。
ガスプロムはオリガルヒが支配する代表的な企業の一つ。米国がロシアに経済制裁を発動する際も、ガスプロムの代表取締役が制裁対象になることが多いです。
ロシアはソ連崩壊後の1990年代に国営企業の民営化を急速に進めましたが、この民営化は当時に支配者階級を形成していた政治有力者(政府権力のお友達)に破格の条件で払い下げる形で行われました。この民営化で恩恵を受けた有力者および関連企業をオリガルヒ(新興財閥)と呼びます。オリガルヒは現在も政府との癒着構造の中で大きな力を持ちロシア国内の重要権益を実質的に支配しています。
(以下、2022年3月1日追記)ガスプロム(50%)はサハリンスク(北海道と目と鼻の先)で英シェル(27.5%)、三井物産(12.5%)および三菱商事(10%)と合同でサハリン2という石油・ガス複合開発プロジェクトを展開しています。このプロジェクトで生産された天然ガスはLNGという形で日本にも輸入されています。
この事業から英シェルが完全撤退を決定しました。三菱商事と三井物産(ひいては日本政府)がどのような判断をするかも今後は問われていくでしょう。
ルクオイル
ロシア国内最大の石油会社。ソ連時代に3つの石油開発会社が国策で統合されて誕生。ロシア国内の売り上げ比率は20%程度で海外向けが多いです。特に販売収入の47%をスイス、13%を米国が占めます。大口株主には同社社長も務めるオリガルヒであるVagit Alekperov(28.3%)および軍人出身であるLeonid Fedun(9.32%)が名前を連ねます。
ズベルバンク(ロシア貯蓄銀行)
ロシア帝政時代に起源を持つロシア最大の銀行(1841年創業)でロシア政府が株式の50%(議決権は51%)を保有しています。日本のゆうちょ銀行のような位置づけですが、手がける業務領域は広範囲で近年はITやフィンテック分野に積極的です。
(以下、2022年3月3日追記)ズベルバンクはSWIFT排除を含む欧米からの経済制裁の影響を懸念した欧州顧客による預金引き出しの殺到により欧州部門(拠点:オーストリア)の事業継続が難しくなっていました。この影響によりズベルバンクは欧州部門からの完全撤退を余儀なくされ、欧州各国の支店が各国の主要銀行に売却されることが決まりました。事実上の欧州部門の経営破綻と報道されています。
ノリリスク・ニッケル
ロシア最大の金属採掘会社。社名に冠するニッケルのみならず、銅(世界第10位)、白金(世界第4位)、コバルト、パラジウム等幅広い鉱物資源の採掘を行なっています。
オリガルヒであるOleg DeripaskaとVladimir Potaninの両名が同社株式をそれぞれ25%(合計50%)保有しています。
ノバテック
石油・天然ガス生産および天然ガスの液化事業を行うロシア企業。天然ガス生産量はガスプロムに次いで国内第2位。筆頭株主はオリガルヒとして知られるLeonid Mikhelsonで株式全体の28%を保有。そして、同じくオリガルヒでプーチン大統領に近いとされるGennady Timchenkoが運営する投資ファンド(Volga Group)が23%を保有。この二人で株式全体の51%を握っているのが経営構造の特徴です。
この二人に次ぐ大株主は仏国営石油会社であるTOTAL(19.4%)と前述のガスプロム(9.4%)。
(以下、2022年3月3日追記)仏国営石油会社のTOTALはロシアで新規事業は行わないものの、すでにノバテックに出資して実施中の事業については継続することを決定、発表しています。
タトネフト
ロシア連邦の構成地域であるタタールスタン共和国にて原油の探査・開発・生産を行う。タタール共和国の国土交通省(Ministry of Land and Property)が株式の29.1%を保有する筆頭株主。
TCSグループ・ホールディング
キプロスに本拠地を置きオンライン金融および生活関連サービスを提供するグループ会社。傘下にロシア国内で展開するネット銀行であるTinkoff Bankを完全子会社として持つ。
ヤンデックス
検索エンジンを運営するロシア版のGoogle(2000年創業)。ロシア国内のインターネット検索市場の50%をヤンデックスが占めています。
筆頭株主は米国の投信販売・運用会社のInvesco(8.48%)。同じく米国の投信販売・運用会社であるFidelity(4.34%)も大口株主に名前を連ねます(投資信託やETFの形で間接保有されている割合が高いということです)。
(以下、2022年3月1日追記)ヤンデックスはNASDAQに米国預託証券(ADR)銘柄として米国株式市場に上場しています。しかし、NASDAQはウクライナ侵攻に対するロシア経済制裁を巡り、同銘柄を含むロシア企業のADR取引を停止しました(出典:ロイター通信)。再開見通しは不明です。
ポリユス・ゴールド
前述のノリリスク・ニッケルの金採掘事業がスピンアウトして誕生した企業。ロシア国内最大の金採掘事業会社。
筆頭株主は弱冠26歳のSaid Kerimov(76.3%)。父のSuleyman Kerimovはオリガルヒとして知られる投資家でロシア大企業と強いコネクションを持つ。
ロスネフチ
ロシア最大の国営石油会社(ロシア政府が指定する戦略的企業の一つ)。筆頭株主はロシア政府が100%株式を持つ特殊会社であるロスネフテガス(40.4%)であり、英国オイルメジャーのBP(19.75%)、カタールの投資ファンド(18.46%)が続きます。
ロスネフチのロシア政府保有割合は100%→75.16%(2006)→40.4%(2012)と低下してきました。これは米国の経済制裁リスクを緩和するためと見られています。
(以下、2022年2月28日に追記)なお、2022年2月28日に英BPは、ロシアとウクライナと交戦中である国際情勢に鑑みてロスネフチ株式の完全処分を決定しました(株式評価額の全額を損金計上)。これは英BPが経済的損失を被ってもロシア権益を手放す決断をしたということでもあります。その損失計上は2.9兆円にものぼるとみられています。米ウォール・ストリートジャーナルによれば英当局がBPに決断を迫ったとされています。
(以下、2022年3月3日に追記)さらに、ロスネフチはサハリン1という石油ガス開発事業を米国、日本、インドと共同で実施していましたが、米国エクソンモービル(30%出資)が同事業からの撤退決定を3月2日に発表しました。これで米国がロシアに持っていた石油天然ガス権益はゼロになります。
日本勢は経済産業省・石油資源開発・INPEX・丸紅・伊藤忠商事による共同出資会社(サハリン石油ガス開発)を通じて30%の出資を行なっているので日本への影響も避けられないでしょう。米オイルメジャーのエクソンモービルは、同プロジェクトにとって経済面のみならず技術的にも大きな存在だったのは想像に難くないので、相当にネガティブな話ですね。
まとめ
①資源価格に影響を受ける経済構造
②オリガルヒが重要権益を支配する産業構造
③西側諸国(国際金融の支配者)との関係
投資観点でのロシアといえば資源価格の影響を受けやすい経済構造です。個人的にはこれはメリットにもなると考えています。
ロシアの経済構造や金融制度(投資家保護含む)が成熟してきて、ロシアETFの経費率も0.2%程度に低下してくればコモディティ投資の代替手段として魅力が増してくると個人的には考えています(コモディティETFは新興国ETF以上に経費率が高いので長期保有のハードルが高い)。
一方で、現在は金融制度が脆弱で金融危機(1998ルーブル危機)に見舞われたり、現代の国際金融を支配している欧米諸国に喧嘩を売ったりと余計なカントリーリスクも抱えています。さらには、ロシア株価指数の時価総額の大部分を占める大企業の経営判断が一部の有力者(オリガルヒ)の思惑で決まってしまう構造は個人投資家からすると見逃せない不安要素(企業の私物化/重要情報の隠蔽が起きないか)かと思います。
総合的に考えると、ロシア株価指数が上昇に転じる場面というのは石油価格(天然ガスは石油価格に基本的に連動している)の上昇相場なので、ロシアのカントリーリスクに関係ない純粋なエネルギーセクターの指数を買えば良いのではと思ってしまいます。
具体的には経費率0.1%で投資できるVDEやXLEなどです。
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